RoboCup


犬型ロボットによるサッカー奮戦記 (2000年メルボルン大会の参加記録)

東京大学 工学系 新井民夫


ロボットによるサッカー試合RoboCupをテレビで見た人も多いであろう.人間によるサッカーと同様,ボールを蹴ってゴールに入れるのだが,1チーム2〜3台のロボットがゴールキーパとフォワードとなって相手チームと戦う.RoboCupには4つの部門がある.計算機の中でソフトウェアだけが戦う「シミュレーション部門」,数センチの直径の車輪移動ロボットが集中制御で行動する「小型機部門」,完全に自律分散の移動ロボットを用いる「中型機部門」,そして4脚ロボットを用いる「脚型ロボット部門」である.最後の脚型部門では,Sonyの支援の基に犬型ペットロボットAIBOと同型のロボット ERS-1100を使用しており,ハードウェアは共通だがソフトウェアの優劣で勝敗が決まる.我が研究室チームは,この脚型部門に99年度から続けて2年参加した.この部門に今年度Melbourne大会には12チームが参加した.

オーストラリアのメルボルンで行われた今年度のRoboCupでは強豪3大学で戦った予選リーグを我がチームは僅差ながらトップで抜け出て,決勝トーナメントへと駒を進めた.しかし,勝負は時の運,オリンピックの日本サッカーチームと同様,準々決勝にあたる初戦で敗退してしまった.
我が研究室はロボット,それも複数の移動ロボットで搬送作業など具体的な作業を実現することを研究している.上述の犬型ロボットを含めて,本研究室に現在“棲んでいる”ロボットは40台を超える.移動ロボットが相互に協力して遂行する作業の好例が犬型ロボット3台で行なうサッカーである.それぞれは自律分散的に動くが,協調してのフォーメーションを作ることやパスをすることは出来ない.

では,ロボットのプログラムをどのように作るのであろうか.たとえば「全速力で走る」をどうプログラムで組むのか?答えは「4つの足を順番に動かすことを真面目に書く」しかない.しかし,その場合でも,膝をどの程度まげて(その結果,どこが地面について)歩くかで速度や安定性は大きく変わる.たとえば,前足を2本,いわば肘(ひじ)を曲げて地面につけた形で,歩けばボールを抱きかかえながら移動できる.サッカーであるから,ボールの操作も重要である.我々は転がる方向が不安定なキックより,ヘッディングの技術に磨きをかける道を選んだ.写真の右側のロボット(赤)は今まさにヘッディングを仕掛けている.このときのボールの位置から自分の体の高さを調節して,ボールに対して確実な位置で首を振ることを今年はプログラムした.

ロボカップは試合である.勝ったほうの論理が正しい.実際,現状では良いプログラムを作ったほうがほぼ確実に勝つ.歩行方法,TVカメラを用いた自己位置測定,ボール操作など何でも良いからひとつの行動に優れていれば勝つ可能性が高くなる.そのような中で,我がチームは上述のように高速行動とヘッディング,それにキーパの行動を目標とした.しかし,今年の大会を制したのは,UNSW(南ウェールズ国立大学)による両腕(前足)でのボールコントロール技術であった.

RoboCupはサッカーである.しかし,ロボットがプレーするのであるから,人間と同じ方法でボールを扱うことが良いとは限らない.犬型ロボットに適した動き・ボールの扱い方があるはずである.我々は,そんな4脚ロボットらしい,しかも華麗なプレイができることを目指していきたい.

ERS-110 最初のAIBO 犬型であった.ERS-210はライオン型,
そして今使われているERS-7はまた犬らしくなった.

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