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りそな中小企業振興財団 財団機関紙「かがやき」寄稿文
Vol.14. 掲載 (2002年9月発行)
りそな中小企業財団の機関紙「かがやき」とは,財団の関係者や中小企業関係者へ配布されている.財団の許可を得た (2005年7月許可)ので,ここに掲載する.

サービス工学の提案 -製品のサービス化-


材料を売るのではない,満足を売る
 GEの会長ウェルチの自伝が売れている.世界最大の名門重電・家電メーカを時代に合わせて変革した発想がどこにあるかを読者は求めている.ウェルチは様々な発想を持ち込んだが,その中の一つに「サービスを商品とする」という発想がある.GEの製品の一つである発電機を購入する顧客は,その製品で電気を作り出すために発電機が必要だったのであり,発電機そのものを買いたかったわけではない.よって,良い商品(つまり電気)が製造できるなら発電機のメンテナンスに費用を掛ける.

 これは,商品を売り切りとして消費者に手渡すのではなく,モノとしての商品の一生に渡って管理をすることで顧客の満足度を高めるとの発想であり,すでに多くの商品で見られる.電子複写機はトナーと紙とメンテが収益の柱である.エレベータを取り扱うビルメンテナンスでは,定期保全に監視作業が組み合わさり,いまやエレベータの交換需要というアップグレード交換にも繋がっている.使い捨てカメラと登場したレンズ付フィルムは完全循環型商品の典型となった.また,携帯電話の例では,デバイスとしての電話機の実価値は相当高いのだが,使用料に重きを置いたビジネスモデルがもてはやされたので,電話機は一時期只同然になった.一方で,テレビや冷蔵庫などの家電の多くはいまだに「モノの価格」として商品価値が考えられている.そして,売り切りの商品として低価格化が進んだ結果,修理は高くつき,結果として調子が悪くなると捨て去られる.

 しかしながら,モノをすぐに廃棄するという20世紀型の大量生産・大量消費・大量廃棄がすでに成立しなくなっていることは広く認識されている.日本では循環型社会形成推進基本法(平成12年6月2日公布・施行)から,家電リサイクル法(特定家庭用機器再商品化法,平成13年4月1日より実施)へと続き,自動車についても不法投棄防止策がとられつつある.つまり,製造業は世に出した製品の一生について管理し,循環型社会の構築に責任を負っているのである.

 そうなると,製品のライフサイクルを上手に管理し,その間に発生する利益とリスクとを上手に負担・分配する方法論が新しいビジネスモデルとなる.今までの「モノ」の販売から,「顧客に満足を与えるもの」すなわち「サービス」の販売が考える時代になったのである.
   


サービスとは何か?
 サービスとは何であろうか.辞書を調べてみれば,宗教的儀式からおまけ品まで広い意味を持っていることが分る.一般には店頭販売,理容室などで見られる「顧客に対して個人的に供給すること」といった定義が妥当であろう.国の統計では第3次産業の中の重要な産業に「サービス業」が存在するが,理容室・美容室などの接客的な業態を意味している.ここでは,サービスとは製造業の製品が購入者へ与える満足度といった意味で定義することとする.しかし,この定義ではあまりにあいまいなので,次のようなモデルを導入する.

      「サービス発信者がサービス・チャンネルを介して,サービス・コンテンツを提供する活動によって,サービス受信者の状態を変化させること」

 図1に示すように,製品(=人工物)はサービスを供給するためのチャネルであり,そのチャネルを通じて,製造者(=発信者)から消費者(=受信者)にサービス・コンテンツが渡り,その結果,受信者は「楽しくなる」「満足する」といった状態変化を起す.この定義からは,消費者が得られるサービスの結果,すなわち満足は,チャネルである人工物の良さとその中を流れるコンテンツの良さの双方によって構成される.製品をサービス供給のチャネルと捉えた場合,サービスの低下が発生する一つの原因はチャネルの劣化によるものであり,これは(1)物質的消費,(2)情報的消費,ならびに(3)機能的陳腐化,によって発生すると考えられる.また,コンテンツの劣化もサービスによる満足度,すなわちサービスの質を低下する.そこで,サービスの質を高めるには,物質的な性質を強く持っているチャネルについた3つの形の消費を補う方法の開発と,コンテンツをチャネルから分離して多様化する方法論が必要と考えられている.

人工物工学研究センター
 私が所属する人工物工学研究センターでは,上記の考え方を体系化すべく本年4月よりサービス工学研究部門を新たに設置した.まずはサービスの形態を分類して,サービスの質と量について定量的な評価ができるようなモデルを構築している.当面の目標はモノの売り方をサービスの販売に変える方法論とその場合のビジネスモデルの構築にある.皆様の支援を求める次第である.

東京大学 人工物工学研究センター
センター長 新井民夫
(東京大学大学院 工学系研究科 精密機械工学専攻 教授)

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リストマーク 2002年にはまだ人工物工学研究センター長を務めておりました.

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